盲目のアスリート東京2020への挑戦

奇跡の盲目のアスリート 稲葉統也(いなば もとなり)さん

稲葉さんはシドニーパラリンピック柔道元日本代表。90キロ級で5位入賞。障害者の国体「障害者スポーツ大会」では、陸上の投擲競技で6連覇など数々の記録を持っています。30歳で突然視力を失った現在52歳。強靭なメンタルと肉体を武器に2020年東京パラリンピック出場を目指し競技生活を続けるアスリートです。

稲葉統也(いなば もとなり)さんと出会ったのは、稲葉さんがまだ30代の頃。それから20年が経とうとしています。ですが、稲葉さんは出会った時から、明るさと、あくなきチャレンジ精神には驚かされ続きでした。稲葉さんのことは、「10人の法則」(現代書林 西田文郎著)でも書かれています。本日は、その稲葉さんの実績と今後の夢についてを紹介させて頂きます。

 

天国から地獄へ

稲葉さんは、30才で経営者として成功し、これから大きく成功しようとした矢先に「網膜色素変性症」という難病にかかり、視力の喪失を宣告されました。

人生の途中で光を奪われる。先天的な盲目と違って、それまで視覚を頼りに生きてきた人の場合は、一気に不幸のどん底に突き落とされます。

その時のことを稲葉さんはこう語ります。

「まるで天から地に落とされたようだった。それまで築いてきた人生が、たちまち崩れ落ちた」

「涙が流れて止まらなかった。悲しみの涙ではありません。自分はどうなってしまうのかという恐怖で涙が止まらない。自分の家族はこれからどうなってしまうのかという不安の涙です」

稲葉さんは自暴自棄になり、一時は自殺の誘惑にもさらされます。

しかし、稲葉さんは「盲目」という現実を素直に受容(受け入れ)、肯定しました。

失明したことで、健常者のときは見えなかった、あるものが見えてきたと言います。

それは「家族の絆」でした。

献身的に支えてくれる妻。
励まし、応援してくれる幼い子どもたち。

「みんなの一生懸命な姿にふれて、絶望している自分の愚かさに気づきました」

見えないものが心に見えた日から、稲葉さんの再出発のための努力が始まりました。

歩行訓練、電車やバス利用のような社会生活の基礎訓練、それらを、根気よく続ける一方で、中学時代に打ち込んだ柔道を再開します。

盲目のアスリートの誕生でした。

 
 

盲目のアスリートの軌跡

稲葉さんは2000年のシドニーパラリンピックの柔道日本代表となり、5位に入賞します。その後、陸上競技、水泳競技、自転車競技にもチャレンジし、なんと!全ての競技で日本一になっていきます。

 2006年から稲葉さんは一時、スポーツの世界から離れていました。しかし、2020年に東京でパラリンピック開催が決定したことを機に、投てき競技での出場を目指して、アスリートに復帰しました。
そして、「54歳でも夢に向かってがんばっている姿を同世代に見てもらい、元気になってもらいたい!」という思いを胸に、日々トレーニングに励んでいます。

 
 

稲葉さんからのメッセージ

 私は障がい者スポーツと出会ったお陰で、「暗い世界」に落ちて本当に良かったと感じられるようになりました。

2020年に向けて競技復帰した私は今、昔の考えとは違った意味で競技に臨んでいます。

 以前は、勝敗だけに重点を置き、勝って喜び、負けては落ち込んでの繰り返しでした。

 しかし今回は違います。年齢も53才ですし、障がい者となった私にできることを考えてみましたら、『次世代の障がい者の皆様が、健常者様と一緒にスポーツを楽しくできる、そんな時代にすることが今の自分の役割なのでは?』と思うようになりました。

 2020年の自国開催のパラリンピック決定で、自分の生涯の役割がはっきりしました。

現在、円盤投げの競技をしていますが、最初は、全く見えないため、どのように回転し、どの時が投げるタイミングなのか?どこに力を入れるのか?などなど、判らないことだらけでした。

 ですが、諦めずコツコツ練習をしていましたら… 2019年7月の大会の円盤投げF11のクラスで日本記録を31年ぶりに更新しました。

現在のランキングは、アジアで3位。世界では21位です。(2019年9月現在)

私の一生涯かけての目標は、障がい者の私が、健常者の陸上マスターズ大会に出場し、自分の名前と記録を残すことです。

50代のクラスでは厳しくても、60代・70代・80代・90代… と続けていったら、どこかのクラスで自分の名前を残せるかもしれないと感じています。100歳までには残したいですね(笑)

 
 

ただ、2020年の「東京パラリンピック」は私の最終目標ではなく、通過点です。

 あと、健常者のマスターズ陸上大会に、障がい者の私が積極的に参加していくことで、障がい者だから助けて…ではなく、健常者と障がい者が共に競う大会になって欲しいです。

 障がい者と健常者は見た目は違うけど、人としてはあまり変わらないと感じて頂きたい。

 自分がマスターズ陸上大会に参加して楽しむ姿をみて、障がい者の選手も気軽にマスターズ陸上に参加してみたいといった気持ちになれるようにしていくことが、私の役割なのかな?とも思いはじめました。

 その為には、先ずは、今の厳しい現実をクリアーして東京パラリンピックに出場し、皆様方に愛されるような選手にならないといけません。

辛い時こそ、そこから何かを「変える」ことが大事ということを、障がい者になって学びました。

 何をするにも、やり直すにも、全てにおいて遅いということはまったくありません。

 みんなが勝つことはできなくても、「変わる」ことはみんなが出来るはずです。

「自分は変わりたい!」と思った瞬間があなたの進化の始まりなのではないでしょうか。

 今、「生きる楽しさ・生きがい」という泉を、掘り当てた感じがします。

 私の夢は、100歳まで障がい者の現役選手として役割を果たすことです。

 だから、私はいつもこう思っています。

 どんな苦しい「今」であっても、その今がいいと感じることができたら、「過去」のイヤだった思い出が、良かったという記憶に塗り替えられますし、そうなることで、これから来る「未来」の素晴らしさをイメージできるはずだと。
 
だから、私が講演を依頼された時の演題は、

「今がいいと思えたら、過去がいいと思え、

きっと未来もいい」

なのです。

 
 

アスリート紹介

稲葉統也(いなば もとなり)選手

静岡県出身。30歳の時、難病「網膜(もうまく)色素(しきそ)変性症(へんせいしょう)」により、突然全盲となる。失意のどん底から、家族の励ましにより立ち上がり、視覚障がい者柔道との出会いで、輝きを見出し、シドニーパラリンピックでは5位入賞。その後、一度競技引退しするも、陸上競技で復帰。国体投てき2種目に出場し、2年連続大会新記録で優勝。 「人はいつからでも変わることが出来る」と言う信条を証明する為、54歳で迎える東京パラリンピックでメダル獲得を目指して活躍中。現在アジアランキング3位。

 

■1998年11月
全国視覚障害者柔道大会(東京都)
2位
■1999年 1月
アジア柔道選手権大会(バンコク)
銅メダル
■1999年11月
全国視覚障害者柔道大会(東京都)
優勝
■2000年 9月
シドニーパラリンピック柔道(オーストラリア)
5位入賞
■2001年 9月
世界柔道選手権大会(ブラジル)
5位入賞
■2001年10月
全国障碍者スポーツ大会(宮城県)
投擲2種目 優勝
■2001年11月
全国視覚障害者柔道大会(東京都)
優勝
■2002年 6月
関東水泳選手権大会(群馬県)
ブレス2種目 優勝
■2002年 9月
世界柔道選手権大会(イタリア)
団体戦 金メダル
■2002年10月
アジア柔道選手権大会(韓国)
銀メダル
■2002年11月
全国障碍者スポーツ大会(高知県)
投擲2種目 優勝
■2003年11月
全国視覚障害者柔道大会(東京都)
2位
■2003年11月
全国障碍者スポーツ大会(静岡県)
投擲2種目 優勝
■2004年11月
全国障碍者スポーツ大会(埼玉県)
投擲2種目 優勝
■2005年11月
全国障碍者スポーツ大会(岡山県)
投擲2種目 優勝
■2005年11月
全国視覚障害者柔道大会(東京都)
2位
■2006年5月
全国視覚障害者自転車競技大会(東京都)
200M・ハロン 優勝
1000M・4000M 2位
■2006年10月
全国障碍者スポーツ大会(兵庫県)
投擲2種目 優勝
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* ここで一度、現役をやめましたが、
2020年の東京パラリンピックに向け再開
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■2015年11月
全国障碍者スポーツ大会(和歌山県)
投擲2種目 優勝
■2016年11月
全国障碍者スポーツ大会(岩手県)
投擲2種目 優勝
■2017年11月
全国障碍者スポーツ大会(愛媛県)
投擲2種目 優勝

■県知事顕彰 3回受賞
■市障害者スポーツ活動功労賞3回受賞

■平成14年度~18年度
静岡県障害者スポーツ協会 評議委員
静岡県障害者スポーツ指導員
初級指導者並びに地域スポーツ指導員

■第2回高知国体
静岡県チームの主将
■第3回静岡国体
静岡県チームの主将 ならび 選手宣誓
■第5回岡山国体
指定政令都市・「静岡市」として
初めての参加 結団式の選手宣誓
■第15回和歌山国体
静岡市政令指定都市の主将

■2019年ジャパンパラリンピック
陸上競技円盤投げ優勝 日本記録更新

現在、53歳にして、アジアランキング3位

 
 

稲葉統也さんへの講演依頼はこちら

▼稲葉統也▼
Mail:ramuda.015@abelia.ocn.ne.jp
▼KSエージェンシー 担当:髙木▼
Mail:takagi@ksagcy.co.jp